【元在住者が語る】エジプトの文化とイスラム教の「本当のところ」。旅行前に知るべき20の作法

エジプトを旅するとき、あなたは多くの「なぜ?」に出会うでしょう。
なぜ週末は金曜日なのか? なぜ昼間なのに街に人がいないのか? なぜ女性は特定の仕事に就けないのか?
その答えのほとんどは、人々の生活に深く根付いた「イスラム教」の教えにあります。
これは、わたしが現地で見て、感じて、時には戸惑った、ガイドブックには載っていない「エジプトの日常」の記録。
この国の見えないルールを知れば、あなたの旅は、もっと深く、もっと面白くなるはずです。
第一章:日常のリズムを支配する「祈り」と「暦」

エジプトの生活リズムは、日本とは全く異なります。その根底にあるのは、宗教的な時間と曜日の考え方です。
週末は「金曜日」と「土曜日」
まず驚くのが、週末は土日ではなく金・土曜日だということ。
イスラム教では金曜日が集団礼拝の日とされており、最も神聖な曜日だからです。
日曜日は平日なので、日本の本社と連絡が取れるのは週に3日だけ。
この調整には、駐在中とても苦労しました。
1日5回のお祈りと、生歌の「アザーン」
イスラム教徒は、1日に5回、聖地メッカの方角を向いてお祈りをします。
その時間が来ると、街中のモスクから「アザーン」というお祈りを促す呼びかけが大音量で流れます。
面白いのは、これが録音テープではなく、毎回専門の人が生で歌っていること。
日によって歌の上手い下手がわかるほどで、これもまた一興でした。
エジプト人には「昼休み」がない?!
彼らの多くは、朝食を遅い時間にとるため、お昼を食べる文化がありません。
そのため、オフィスワークも昼休憩なしでぶっ通し。
彼らと会議をすると、平気でお昼抜きで続けようとするので、「12時半からお祈りですよね?」とこちらから提案して、休憩時間を確保していました(笑)。
祝日はギリギリまで決まらない
イスラム教の祝日は、月の満ち欠けで決まる太陰暦が基準。
そのため、ラマダン明けの休日なども、日付が確定するのは前日というのが普通です。
それでも社会が回っているのだから、驚きです。
第二章:食卓から寝室まで。イスラム教の「タブー」の境界線

イスラム教には、食や性に関する厳格なルールが存在します。
しかし、そこには意外な「例外」や、日本人には理解しがたい文化も。
豚肉を「食べてもOK」な4つの例外
豚肉が禁止なのは有名ですが、コーランでは「戦争中」「生命の危機」「旅行中」「豚肉と知らなかった時」は食べても良いとされています。
「知らなかった」がOKなら何でもありでは?と思いますが、彼らは非常に真面目。
日本からのお土産のお菓子でも、豚由来の成分が入っていないか、必ず確認してきました。
(一度、豚肉エキス等が入っているかがわからないお菓子を渡したら、調べまくった挙げ句に食べてくれませんでした…)
牛肉と鶏肉がパサパサな理由
イスラムの教えに則った屠殺方法(ハラール)では、徹底的に「血抜き」をします。
そのため、スーパーで売っているお肉は、どうしてもパサパサになりがち。
ステーキハウスなどで食べる輸入肉は、比較的美味しかったですが、それでも日本の肉のジューシーさには敵いませんでした。
下ネタは絶対NG!映画のキスシーンもカット
イスラム圏では、性的な話題は極度のタブーです。
映画のラブシーンはカットされ、アダルトビデオなどもってのほか。
わたしも一度、冗談で「休みの日はAV見てるよ」と現地スタッフに言ったら、場の空気が凍りつきました。
笑いのための下ネタも、ここでは絶対にやめましょう。
【18禁】結婚するまでセックスはNG。処女の証明とは…
結婚前の性交渉は厳禁。
家庭によっては、結婚初夜のシーツに付いた処女の血を家族に見せて証明するという風習さえあるそうです。
そのため、事情があって処女ではない女性のために「処女膜再生手術」も存在するというから、その厳格さが伺えます。
第三章:社会生活と男女の役割

結婚観や、男女の働き方も、日本とは大きく異なります。
奥さんは「4人」までOK!でも現実は…
イスラム教では、男性は4人まで妻を持つことが許されています。
しかし、妻を娶るには、その人数分の「持ち家」を夫が用意するのがエジプトの文化。
当然、複数人の妻を持つのは、ごく一部の大金持ちだけです。
結婚前には、両親公認の「1年間のお試し期間」
エジプトでは、結婚を前提にお付き合いを始める際、双方の両親の承認が必要です。
同棲はせず、1年ほど交際してから結婚に至るのが一般的。
中には、この「婚約セレモニー」を教会などで盛大に行うカップルもいます。
女性はサービス業に就けない?
宗教上、女性が家族以外の男性に密接なサービスをすることは良しとされません。
そのため、ゴルフのキャディやマッサージ師は、必ず男性です(男性のマッサージ師、力が強くて最高ですよ!)。
一方で、会社の事務職や、意外にもエンジニアなどの専門職で活躍する女性は非常に多いのが特徴です。
第四章:聖なる月「ラマダン」徹底解説

イスラム教徒にとって最も重要な期間「ラマダン」。
この1ヶ月間、街も人も、全く違う姿を見せます。
ラマダンとは「断食」のお祭り
日中の飲食・喫煙が一切禁止されるラマダン。
テロと結びつける報道もありますが、本来は信仰を深めるための神聖な期間であり、人々にとってはお祭りの一種です。
夜には街中が飾り付けられ、日没後の最初の食事「イフタール」を家族で盛大に祝い、夜通し賑わいます。
昼間はゴーストタウン、仕事は進まない
日中、人々は体力を消耗しないよう家で過ごすため、街は閑散とします。
オフィスでは、空腹と眠気で現地スタッフの集中力はゼロに。
ミスも増え、イスラム教徒は14時には帰ってしまうため、仕事は全く進みません。
「イフタール」中は邪魔をしてはいけない
日没後の食事「イフタール」の時間は、彼らにとって絶対不可侵の時間。
ドライバーに電話をしても繋がらず、残業が確定したり、スーパーが一時的に閉まったりすることも。
異教徒にとっては、なかなか不便な期間です。
第五章:聖なる空間と社会の作法

お祈り用マットは聖域。土足厳禁!
イスラム教徒が使うお祈り用マット。
これは異教徒であっても、土足で踏むことは絶対に許されません。
わたしも一度、靴を脱ぐためデスクの足元に敷いていたら「神聖なものを軽視している」と止められました。
結婚式は、ほぼダンスパーティー【メシは出ません】
エジプトの結婚式は、屋外で夜に行われるのが一般的。
牧師役の前で誓いの儀式を終えると、あとは大音量の音楽で、ひたすら深夜まで踊り明かします。
食事は、缶ジュース1本と一口チョコだけ、なんてことも。
ご祝儀の文化はありませんが、日本との違いに驚かされます。
第六章:「なんでもアリ」の精神

著作権?そんなものはありません!
エジプトでは、著作権の概念はほぼありません。
有名キャラクターの海賊版グッズが溢れ、専門書や漫画ですら、PDFデータがネットで簡単に見つかります。
生きるための逞しさ、とも言えるかもしれません。
【まとめ】

エジプトの文化は、一見すると非合理的で、矛盾しているように見えるかもしれません。
しかし、その根底には、千年以上にわたって人々を支えてきたイスラム教の深い教えと、たくましく生きる人々の知恵があります。
この「違い」を肌で感じることこそ、エジプトを旅する最大の魅力。
この記事が、あなたの旅を、より深く、豊かなものにする一助となれば幸いです。